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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)9666号 判決

原告

愛知タイヤ工業株式会社

代理人弁護士

吉永多賀誠

輔佐人弁理士

山田恒光

被告

岡山タイヤ工業株式会社

輔佐人弁理士

新垣盛克

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実《省略》

理由

原告がその主張にかかる実用新案権の権利者であり、その登録請求の範囲の記載、本件考案の構成要件、目的、効果がそれぞれ原告主張のとおりのものであること、被告が別紙目録記載のとおりの作業車用タイヤを製造、販売していることは、当事者間に争いがない。

そこで、別紙目録記載のタイヤが本件考案の技術的範囲に属するか否かについて判断する。

本件考案は、作業車等に使用するタイヤにおいて、カーカス層を収納装着したタイヤ本体内に「軟質ゴム層を囲繞収納したこと」を必須要件の一つとするものであるが、ここにいう軟質ゴムの意義について、成立に争いのない甲第四号証、同第八号証、乙第六号証、同第一四号証の一ないし六および鑑定人増田博の鑑定結果を総合して考えると、軟質ゴムとは、その硬度がどの程度のものをいうかについて工業上一般的一義的に通用する定義はないこと、従来のソリッドタイヤのトレッド部分の硬度にも種々のものがあつて、大体スプリング式硬度五七度ないし八五度の間にあつたことおよび従来のニューマテイックタイヤのトレッド部分も同様にスプリング式硬度六二度前後のものであつたことが認められる。成立に争いのない甲第一号証(本件考案の実用新案公報)中、考案の詳細な説明の項には、本件考案の構成について、「内部に弾張性ある軟質ゴム層2を囲繞収納し且踏面4を耐摩耗性ゴムにて形成した本件1のビード部3を硬質ゴムにて形成し」と記載され(なお、その第三図および第四図には、本件考案のタイヤのビード部3と踏面4の部分とが、同等なものとして、ともに実線と鎖線とを交互に用いたハッチングをもつて表示されている。)、さらに、軟質ゴムによるクッション性について、(従来の)「ソリッドタイヤはゴム硬度が高めで而も同一材料で形成されているためこれを使用すると振動及び衝撃が激しくクッション性が極めて悪く而も使用中にホイールとゴム層との間に剥離を生ずることが屡々あつた。又普通タイヤはクッション性には優れているがこれを負荷重量の大なる産業車等に使用するとパンク及び切損し易いため早期に使用し得なくなる。これに対し本考案のタイヤは、普通タイヤと同様な形状であり而も下端部内にビードワイヤー8を位置せしめたカーカス層9をサイドウオール5まで本体1の外径に沿つて形成してあるので、中心部の軟質ゴム層2の作用と相俟つて普通タイヤと略々同等のクッション性を有する。」と特に言及されている。また、弁論の全趣旨に徴し真正な成立の認められる乙第一八号証(製造元原告会社、販売元訴外金沢通商産業株式会社名義のパンフレット)には、本件考案の実施品であるユニークタイヤについて、中心になる部分が外部のゴム質と比較してある程度軟質性特殊ゴムの配合により、ニューマティックタイヤに規定の空気圧を注入した時に近いクッション性を持たせてある旨説明されていることが認められる。

登録請求の範囲の記載と右認定の事実とを勘案すると、本件考案は、従来のソリッドタイヤあるいはニューマティックタイヤの構成ではクッション性が充分でないとの認識を前提とし、ニューマティックタイヤの空気に代え、タイヤ本体の内芯を弾力性ある軟質ゴムとするという発想のもとに、タイヤ本体と内芯との二重構造とし、他の構成要件と相まつて、従来のソリッドタイヤとニューマティックタイヤの双方の欠点を除去し、他方、その利点を備えるように構成されたものとみるべきものであり、本件考案において、特に本体内に軟質ゴム層を囲繞収納すると規定しているのは、少なくともトレッド部分の硬度より軟質のゴムを内芯とすることをその必須要件の一つとしているものと認めざるをえない。

かくして、本件考案における軟質ゴムとは、ゴム硬度の絶対的基準を示すものではなく、相対的にタイヤ本体のトレッド部分のゴムの硬度と比較して、これよりも軟らかいゴムと解すべきであり、この認定に反する証拠はない。

ところで、被告の製造、販売している別紙目録記載のタイヤは、トレッドゴム部分の硬度がスプリング式硬度五〇度以上六〇度未満であり、内芯のゴム層の硬度はスプリング式硬度六〇度以上七〇度未満であつて、タイヤ本体のトレッド部分の硬度と比較して内芯のゴム層の硬度が高いものであるから、本件考案の技術的範囲に属さないことは明らかである。

よつて、原告の本訴請求は、その余の判断をするまでもなくいずれも失当として棄却すること……する。(荒木秀一 宇井正一 高林克己)

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